過去のメッセージ
XFELによる研究成果の社会還元について
山内 薫
昨今は、基礎研究であっても、その研究がどのように役立つのかを問われることが多い。規模の大きい実験研究の場合、多額の研究資金を投入して成果を出すという営みである以上、単にその成果の学術的な意味が問われるだけではなく、その研究の成果が直接的、あるいは間接的にせよ、経済発展や国民生活の向上に資するものであるかを問われることは、無理からぬことである。
さて、国家基幹技術として、理研播磨で建設されたプロトタイプXFELおよび、建設が進められているXFELの本機の持つ特徴は、軟X線および硬X線の波長領域において、これまでとは比較にならないほど輝度の高い光を発生できることにある。実際、プロトタイプXFELの出力光を集光すれば、55nm付近で、10^15 - 10^16W/cm^2の光電場を実現することが可能となると期待される。このような強光子場を軟X線の波長領域で生成することは、現在の高輝度超短波長レーザー光によって生成された高次高調波によっても困難である。「軟X線領域における強光子場で原子や分子さらには物質系がどのように応答するか?」という問題は、人類にとって未知の領域に属するものであり、今、このプロトタイプ機によって、その問いに答えが与えられようとしているのである。そして、その第一歩は、2つ以上の光子が吸収する非線形光学過程を観測することである。
このように、人類の知のフロンティアの開拓に資するだけでも、人類と社会に対して胸を張って、役に立つと言えるのではないだろうか。新しい知は、その先の知の地平線を照らし、新しいフロンティアに向かう道筋を示すものであり、その意味において役に立つと言い切れるものである。日本は先進国の一員であり、一般の諸外国から見れば、経済的に恵まれた環境にあることは言を待たない。今我々は、基礎研究においては、新しい技術や装置を開発したときに、「経済発展や国民生活の向上に“すぐに”役立つかどうか」をもって、その技術や装置を評価するという段階を超えて、その技術や装置が「人類の知を開拓するかどうか」をもって、「社会に還元したかどうか」を評価する段階に達しているように思えてならない。
(平成19年12月20日)