研究室のメンバー
山内 薫(やまのうち かおる)
所 属:東京大学アト秒レーザー科学研究機構
連絡先:〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
電話:03-5841-4334, 080-4294-6407
FAX:03-5689-7347
電子メール:kaoru@chem.s.u-tokyo.ac.jp
2023年4月より東京大学アト秒レーザー科学研究機構特任教授。大学院理学系研究科化学専攻にて量子フロンティア研究室を主宰。物理化学、特に、強光子場科学、アト秒科学、レーザー分光学、化学反応動力学、原子分子過程の量子計算を専門分野としている。
研究助成歴、受賞:1987年に分子科学奨励森野基金受給。日本分光学論文賞(1989年)、日本化学会進歩賞(1991年)、日本IBM科学賞(2000年)、英国物理学会フェロー(2004年)、レーザー学会論文賞(解説部門)(2008年)、第67回日本化学会賞(2015年)、第7回分子科学会賞(2016)、光化学討論会特別講演賞(2017)、紫綬褒章(令和2年春)。
略歴:1957年4月27日東京生まれ。1981年東京大学理学部化学科卒業。1983年に同大学大学院にて修士号を取得したのち、1986年に「Structural Chemical Studies on Rotational Isomerism, Nuclear Quadrupole Coupling, and van der Waals Interaction」により論文博士。
職歴:理学博士取得の前年に東京大学教養学部基礎科学第一に助手として就任。1990年に同助教授に昇任したのち、7年間同職を務める。1997年、同大学大学院理学系研究科化学専攻教授に着任。2023年11月より東京大学総長総括委員会にて設置されたアト秒レーザー科学研究機構の機構長に就任。2023年3月、東京大学教授を定年退職。同4月、アト秒レーザー科学研究機構特任教授に着任。
所属学会:現在、日本学術会議第25期連携会員、日本化学会会員、米国物理学会会員。強光子場科学研究懇談会幹事。英国物理学会誌Journal of Physics B:Atomic, Molecular and Optical Physics国際諮問委員会委員、Springer' Series in Chemical Phyiscs シリーズ編集者、Springer's Series in Topic in Applied Physicsシリーズ編集者、Springer's Sub-series "Progress in Ultrafast Intense Laser Science"編集委員長、Chemical Physics (Elsevier) 編集委員会委員。
研究活動:山内教授は、1980年から長年にわたり分子科学の分野の研究に従事してきた。1995年頃までの主な研究は、高励起分子およびクラスターにおける分子内動力学に関連するものであった。レーザー分光法における新たな手法の開発をもとに、高い分解能で観測した周波数領域のスペクトルにおいて、超高速核運動ダイナミクスの情報がどのようにして書き込まれていて、そして、それをどのようにして抽出するかを解明した。一連の研究は、周波数領域のスペクトルから、時間領域における分子の超高速ダイナミクスを抽出するための方法論を具体的に示し、その基礎を与えるものとなった。
1996年頃から現在に至るこの27年間には、一貫して原子および分子が強い光の場のなかで如何に応答するかという問題に実験と理論の立場から取り組み、物理学、化学、レーザー工学分野にまたがる新分野である強光子場科学分野の開拓者の一人として国内外に広く知られることとなった。山内教授は、多原子分子が強レーザー場と強く相互作用しドレスト状態を形成しその構造が瞬時的に変形すること、水素原子を持つ多原子分子内では分子内を水素原子が極めて速くマイグレーションすること、レーザー場の強度やパルス幅をデザインすれば化学結合の切断場所をコントロールできることなどを次々と明らかにした。そして、水素原子のマイグレーションを記述するためにプロトンを電子と同様に波動関数を用いて記述する電子状態理論を構築するなど理論面においても独創的な貢献をしてきた。また、電子が光の場の中で散乱される場合に、散乱電子が光の場からエネルギーを得たり失ったりするレーザーアシステッド散乱過程をフェムト秒レーザー場によって観測し、電子散乱過程の時間分解計測の端緒を開いた。
さらに、近赤外の強レーザー場を空気中に照射すると紫外域のレーザー光が発生する「空気レーザー」のメカニズムの解明に実験と理論によって取り組み、空気レーザーが窒素分子イオンの3つの電子状態の準位の間の超高速分布移動によって起こることを明らかにした他、近年では、量子コンピューターを用いた研究の重要性を見抜き、分子振動、分子軌道、強レーザー場での分布移動過程などの分子科学の基本となる問題を量子計算機の実機を用いて計算し、「量子コンピューターを自然科学研究に如何に役立てていくか」についての指針を与える研究を展開している。また、超短パルスレーザーを用いたポンプ・プローブ計測を行うことによって超高分解能分光が可能であることを、長尺の干渉計を用いたフーリエ変換分光法によって明らかにし、超高速現象の観測によって新しい超高分解能分光計測が可能となることを世界に先駆けて示した。
一方、山内教授は実験研究を推進する過程で、「コインシデンス運動量画像計測装置」、「レーザーアシステッド電子散乱計測装置」、「フェムト秒レーザーの高次高調波発生を利用したアト秒レーザービームライン」の開発など、独自の装置開発に取り組んできた。2010年には理化学研究所、日本原子力研究開発機構(現、量子科学技術研究開発機構)、慶應義塾大学の研究グループと共同で、理化学研究所播磨研究所に設置された軟X線自由電子レーザーのプロトタイプ機にフェムト秒レーザーの高次高調波をシード光として導入し、「フルコヒーレントな軟X線自由電子レーザー光の生成」に世界で初めて成功した。
山内教授のこれらの基礎学術研究における業績は270報におよぶ原著論文に示されている。
科学分野の振興:山内教授は、超高速強光子場科学という新しい学際的分野で国際的にリーダーシップを発揮してきた。2002年度より4年間、文部科学省科学研究費補助金による特定領域研究「強レーザー光子場における分子制御」の領域代表者として国内の45を超える研究グループによるネットワーク研究を展開した。また、日本学術振興会の先端研究拠点事業「超高速強光子場科学」(2004-2009)のコーディネーターを務め、欧米6か国(50研究グループ)と国内(15研究グループ)の研究グループとの間の下、国際的な超高速強光子場科学研究の分野を推進した。山内教授は、数多くの国際会議や国際研究集会において組織委員長あるいは共同組織委員長を務めている。その中でも、2002年より山内教授のリーダーシップの下で始められた「超高速強光子場科学に関する国際シンポジウム」International Symposium on Ultrafast Intense Laser Science (ISUILS) は、この新しい研究分野において最も成功した学会のうちの一つとして、世界的に知られている。また、2004年にシンポジウムAsian Symposium on Intense Laser Science Iを東京で開催、2009年に第一回Shanghai-Tokyo Advanced Research (STAR) Symposium on Ultrafast Intense Laser Scienceを東京で開催し(以降、毎年上海側と交互に主催)、アジア諸国での光科学分野の振興にも努めている。
山内教授は、強いレーザー場を利用して初めて可能となるアト秒レーザーパルスとその応用についての研究の端緒を開くとともに、国内外における研究者間のネットワークを構築してきた。2018年よりQ-LEAP先端レーザーイノベーション拠点「次世代アト秒レーザー光源と先端計測技術の開発」 (ATTO) 部門の部門長として、国内の37の産学官の研究グループのメンバーとともに、アト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility: ALFA)に将来設置するアト秒レーザー光源や計測装置のために必須となる基礎技術の開発に取りくんでいる。また、共同利用光源施設「アト秒レーザー科学研究施設」の設立を目指して総長総括委員会の下に令和4年11月に設置された「アト秒レーザー科学機構」の機構長として学術コミュニティーのために尽力している。