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メッセージ

Acronyms と私

山内 薫

ある時は翼(WINGS)を羽ばたかせ、アルプス(ALPS)の山々を越え、白銀の世界にシュプール(SPUR)を描き、また、ある時はオアシス(OASIS)を求め、一歩一歩(STEPS)踏みしめながら夜空の星(STAR)を見つめ、またある時は、海岸(COAST)に打ち寄せる波(SURF)に乗り、サンゴ礁(CORAL)に集う魚たちとともに泳ぎ、大海原(OCEAN)に漕ぎだし、独創的な(ZESTY)アイデアを持って若者は前へ進む。

1997年に総合文化研究科から理学系研究科に私の研究室を移転させていただいてから、教育と研究の他に、教育支援、国際交流、研究交流、産学連携教育のプログラムや研究支援総括室(ORSD)の立ち上げなど、いくつもの新しい取り組みを進める機会をいただき、それに伴い数々のアクロニム(acronyms)が生まれることとなった。化学教室において2002年に始まったAECは、BAEC、EAEC に広がり、2014年には GSC (Global Science Course)として実を結んだ。化学科では、学部3年次に海外からGSC生を受け入れるとともに、すべての講義が英語で行われるようになった。

2002年には、強光子場科学およびアト秒科学の学際的な国際会議としてISUILS が発足した。その後、学術団体JILSと東京大学の支援の下、ISUILSは毎年主に海外で開催されるようになり、今年で第20回を迎える。2004年にCOASTプログラムが始まると、それを運営する母体として超高速強光子場科学研究センター(CUILS)を大学院理学系研究科に設置していただいた。そのおかげで、理工連携、大学間連携、産学連携の大学院のための光科学分野の教育プログラム(CORAL)が2007年に発足することとなった。

また、2008年の頃から予算要求を進めてきたアト秒レーザー科学研究施設(ALFA)の構想が前進し、2022年度に運営費の獲得に至った。そして、施設建設を実現するために昨年11月にアト秒レーザー科学研究機構(I-ALFA)が東京大学総長総括委員会の下に設立された。一方、量子技術の近年の急速な発展のおかげで量子計算機が身近なものとなり、AQUABIT プロジェクトでは、東京大学に新たに導入されたibm_kawasakiを活用し、産学連携体制で研究が進められている。

長年にわたって東京大学において教育と研究に従事させていただけたことは、私にとって貴重な無二の経験である。これまで私をご指導下さった諸先輩方に、私を支えて下さった教養学部・総合文化研究科、理学系研究科および化学教室の教職員の皆様に、そして、教育・研究プログラムを通じてご支援を下さった企業の関係者の皆様に厚く御礼を申し上げたい。最後に、私と共に研究を進めてくれた、私の研究グループの優秀なスタッフメンバーと、やる気に満ちて研究室に入ってきてくれた多くの学生の皆さんに心より感謝したい。私がもし研究のフロンティアを少しでも開拓することができたとしたら、それは、一重に彼らの力と支援によるものである。理学系研究科と化学教室のこれからの益々の発展を祈念して、終わりの言葉としたい。

(令和5年2月6日)

このメッセージの内容は、理学部ニュース3月号(54巻6号)、『定年退職の方々を送る』に「Acronymsと私」として掲載されている。https://bit.ly/3LN2oZl