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メッセージ

グローバルサイエンスコースとAcademic English for Chemistry

山内 薫

昨年のメッセージで紹介した通り、平成26度から、理学系研究科・理学部ではグローバルサイエンスコース (Global Science Course;GSC)が始まりました。今年度10月から、まず化学科が海外からの編入学生7名を学部3年次に受け入れました。彼らは5科目12単位分の講義コースの受講を終了し、今、期末試験の期間を終えたところです。この5科目の講義は、教授の先生方をはじめ、外国人若手教員が担当しました。講義を担当した教員の方々は、皆、7名の編入学生がいずれも優秀で、勉学意欲に満ちていると高く評価して下さっています。私も量子化学I-GSの講義を担当しましたが、やはり、同様な印象を受けました。GSCの第1学期目が、編入学生の熱意にも助けられ、大変良い雰囲気のもとに無事終わろうとしていることは大変ありがたいことです。御協力いただいた化学専攻の教員の方々、GSCオフィスのスタッフの方々、そして化学専攻事務室の方々にGSCコーディネーターとして感謝したいと思います。

GSCでは、海外からの編入学生のために、この1学期間日本語の特別講義を開講しました。外国人のための日本語教育に実績のある宮田祥子先生に講師になっていただいて、週に2回、朝の1限に日本語の講義をしていただきました。そして、その最終日となった1月21日の講義では、この1学期間の勉強の締めくくりとして、7名のGSC編入学生達が、それぞれテーマを選び、日本語でプレゼンテーションを行いました。私もそのプレゼンテーションに同席し、それぞれの学生のプレゼンテーションの後、日本語で質問をしたところ、皆しっかりと日本語で質問に答えてくれました。この7名の内1名は、来日前に1年間の日本語の勉強の経験がありましたが、他の6名は殆どゼロからの語学学習でした。この短い4ヶ月間という期間で、これほどまでに外国語を身に着けることができるということに私は驚き、そして、感銘を受けました。これは宮田先生の教授法が素晴らしかったことに尽きると思いますが、学生たちの積極性と熱意が無ければ達成できなかったことであると思います。若い時に熱意をもって取り組めば外国語を短期間で習得することができるということを彼らは見事に証明してくれました。

私は、化学科において、学部3年生を対象として、夏学期に量子化学Uを、そして、冬学期に量子化学Vを担当しています。講義はすべて英語で行っていますが、講義に出席している学生は、講義内容を十分に理解しているようです。英語が分からないので授業の内容が分からないということになっては本末転倒ですから、なるべくインタラクティブに講義をするように心がけています。学生たちは講義の中で私からの質問にしっかりと答えてくれます。ただし、学生からの回答や発言は、多くの場合日本語で、なかなか英語で発言という訳には行かないのが現状です。しかし、それはそれで良いのだと思います。段々に話したいことが英語で話せるようになればそれで良い訳ですから。

しかし、GSCの編入学生たちが4ヶ月で日本語をある程度話せるようになってしまった、そして、会話もできるようになってしまった、という事実を目の当たりにすると、日本では、やはり外国語の教育において、特に初期の段階の教育において何か間違っていた、あるいは、いまだに何かまだ間違っているのではないかと思わざるを得ません。もちろん、そのような感想を述べているだけでは、前に進めません。御存知のように化学科では、2年生の冬学期にはEAEC (Elementary Academic English for Chemistry) を、3年生の夏学期に BAEC (Basic Academic English for Chemisry) Iを、4年生の夏学期に BAEC IIを開講しています。そして、化学専攻修士1年生には、通年で AEC (Academic English for Chemistry) を開講しています。これらの AEC授業では、学部学生、大学院学生の皆さんが、将来、国際的な場でごく普通に英語をつかえるようになるように、生きた英語に接することができる環境を用意しています。昨年度に引き続き本年度(平成26年度)も、Timothy Wright 先生(大妻女子大学)がリーダーとなって下さいました。そして、Wright 先生、David Taylor 先生(東京大学)、Evelyn Reinbold 先生(文教大学)が授業を担当して下さいました。3名の先生方のご指導とご協力に感謝したいと思います。

今、学部2年生で化学科に進学が内定している学生の皆さんは、スムーズに行けば、今年の4月から化学科の3年生となります。そして、すでに秋入学をして1学期間講義を受けたGSCの7名の外国人編入学生とともに同じ講義を受けることになります。講義はすべて英語で行われます。また、GSCでは、編入学生とほぼ同数の内部進学生をGSCコース生として受け入れます。コース生となる内部進学生は、海外からの編入学生達のチューターとなると同時に、海外でのインターンシッププログラム参加のための経済的支援、TOFEL講座受講費の支援などを受けることができます。

この内部進学生の内、GSCコース生となることを希望し、その申請書類を提出した学生の面接試験を1月20日に行いました。面接ではそれぞれの学生が、なぜGSCコース生に成りたいのかを英語で熱心に語ってくれました。彼らの英語力の分布には幅があったように感じましたが、いずれの学生も、そのモーティベ―ションを我々教員に伝えようと一生懸命でした。そして、彼らとの質疑応答のなかで、彼らが受講していたEAECが大変役に立ったこと、そして、将来の留学の際に、また、将来国際的な学術の場で将来活躍するために英語をできるだけ身に着けるために努力していることを説明してくれました。私は化学科に進学が内定している学生たちが、EAECを活用してくれていることを知り、大変嬉しく思いました。また、彼らが英語で説明することに積極的であるということは、実践的な英語教育の場であるEAECがその効果をあげていることを示していると思います。

理学部化学科では、今年の4月から新しいフェーズに入ることになります。クラスの内の1割以上が海外からの編入学生となり、そして、すべての講義が英語で行われます。学生たちの間でも、英語で話し合う機会が増えることと思います。語学は使わなければ上手になりませんが、毎日使えば上達も速くなりますので、内部進学生の英語力も格段に伸びると期待しています。一方、外国人編入学生は皆、日本語がもっと上手になりたいと思っていますので、内部進学生とクラスメートとなることは、彼らにとって、日本語のスキルアップのために大変良い機会となるでしょう。そして、このような言語環境の変化に伴い、BAECIとBAECIIをどのように最適化していくかは今後の課題になりそうです。これまでのBAECIとBAECIIは、普段は日本語しか使わない学部学生に週に1回英語の環境を与えることが一つの重要なミッションでした。しかし、今年の4月からは、化学科の3年生は毎日英語に接することになるので、BAECIとBAECIIについてもそれを踏まえたものとする必要がありそうです。

我々は今後も、充実した国際的な教育環境を学生の皆さんに提供していきたいと思っています。そして、学生の皆さんが、この恵まれた環境を活用して、将来国際的な場で存分に活躍できるように、今年もまた、聳え立つ一対のヒマラヤスギに宿る化学教室の土地の神様に、お祈りをささげて、この文章を終えることにしたいと思います。

(平成27年2月12日)