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メッセージ

El viento de Atacama (アタカマの風)

山内 薫

それはアタカマの風で始まった。サンチャゴ、チリカトリカ大学の講堂でバイオリニスト会田桃子の率いる楽団アウロラが奏でたアタカマの風は、サンペドロ・デ・アタカマ市で我々を待つ東京大学アタカマ天文台「TAO(The University of Tokyo Atacama Observatory) 山麓研究施設」の開所式のための序章を飾った。11月19日夕刻に開催された在チリ日本大使館主催の演奏会では、我々東京大学チームは、在チリ日本大使二階尚人氏ご夫妻、チリカトリカ大学のプロレクター Guillermo Marshall氏らとともにアタカマの風を堪能した。翌日、建築後間もないカラマ空港に降り立ち、ダイナミックな風景を形作る赤茶けた山岳地帯を、浮島や逃げ水に迎えられながら越え、オアシスの町、サンペドロ・デ・アタカマ市に到着した。理学系研究科附属天文学教育研究センターの土居 守教授に案内していただいた山麓施設には、近代的なデザインの下、宿泊室、談話室、教室、スタッフ居室、実験室など、今後のTAO建設やTAOによる本格的な観測を支援するための充実した設備が整っていた。開所式を翌日に控え、急ピッチで施設見学のための準備が進められていた。屋上から眺めるリカンカブール山と、頂上付近が見えるチャナントール山、それに連なるアンデスの山並みは絶景という他は無い。

11月21日午前11時より、天文学専攻の水野範和准教授(国立天文台チリ観測所専任)の司会で開所式がサンペドロ・デ・アタカマ市公営ホールにて始まり、東京大学として、また、東京大学大学院理学系研究科として、私から山麓研究施設の開所を祝い、ご尽力をいただいた方々に御礼を申し上げた。そして、サンペドロ・デ・アタカマ市長の Sandra Berna Martinez 女史からの祝辞の後、在チリ日本大使を代表して山口恵美子書記官から、続いて、合同ALMA (The Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array) 観測所を代表して、ESO (European Southern Observatory) チリ支所代表のFernando Comeron 氏から祝辞をいただいた。その後、山麓研究施設の建築に協力していただいた、Sekai M. Z. 会社 Mario Segundo Zambrano Gonzales 氏、国際ランド&デベロップメント社社長 金丸直幹氏、アンデス商事社 松原 修氏に、私から、東京大学総長名での感謝状を差し上げた。最後に、吉井 譲 天文学教育研究センター長からの謝辞があり、開所式が無事終了した。その後、山麓研究施設の見学があり、関係者一同の夜を徹してのご努力のおかげで前日とは見違える程美しく整えられた山麓研究施設は、市内に建てられた最も近代的な建築物として、来賓の方々の印象に強く残ったに違いない。夕刻に始まったレセプションでは、サンチャゴからピアノを運び込んだアウロラが、力強いタンゴを演奏し、公営ホールに集まった市民から喝采を浴びた。

翌日、国立天文台チリ観測所長 長谷川哲夫先生のご案内の下、標高 5000 m に位置するALMA望遠鏡を訪問することができた。群立する観測アンテナはまさに壮観である。丁度、下山しようとした矢先に、遠方からトランスポーターがアンテナを載せて我々に向かってきた。土埃をまき上げて進むトランスポーターをチャナントール山の山頂に白く光るMini-TAO観測施設が見下ろしていた(写真)。我々は、レイリー散乱で青々と見える谷間にひときわ青白く輝くアタカマ塩湖を見ながら、ALMAを後にして帰路に着いた。

スペイン語しか通じない現地で、言語の壁をものともせずに、地元の信頼を勝ち得、TAO観測施設を建築し、フロンティア研究に情熱を注ぐ天文学教育研究センターの河野孝太郎教授、宮田隆志准教授、本原顕太郎准教授、天文学専攻の戸谷友則教授らの若手研究者の方々の雄姿に、私は深く感銘を受けた。そして、東京大学として、東京大学大学院理学系研究科として、TAO計画を推進することの重要性を心に刻んだ。プロジェクトを牽引して来られた天文学教育研究センターの吉井 譲センター長、土居 守教授のリーダーシップに敬意を表したい。そして、天文学教育研究センターの橋口 剛さん、橘 登志子さん、理学系研究科事務部の稲田敏行総務課長、金田佳宏さんのご尽力に、また、サンチャゴでの演奏会での私の挨拶のスペイン語の文章と発音を指導して下さった理学系研究科事務部の上村桜子さんに感謝したい。

(平成26年11月29日)